大陸東部から、広大な草原地帯に住む遊牧民族がハイドフェルド領内に攻めてきた。
彼らが大陸全土の統一を旗印に掲げ、駿馬を操りその機動力で王国の東方を崩したのだ。
一気に王都へ向けて兵を進める軍団を指揮していたのは、
草原の有力部族の長であるクレシ・クセン*1であった。
ファレッタは大陸一と謳われる速い行軍の敵を相手に回し、苦戦する。
防衛の要所となる拠点を完全に無視して前にのみ進む騎馬隊は、
王国の喉元深くに突き刺さる形になっていた。
王国軍の有力者であるルイーゼ騎士隊長や、ビューロー騎士隊長は全軍での阻止を提案したが、
ファレッタは小出しで少しずつ兵を出し、その度に惨敗した。
遊牧民が王都まで目前に迫る戦況の中、ファレッタは一人城下町でカフェを楽しんでいた。
そこで、単騎王都の偵察に来ていたクレシ・クセン本人と遭遇。何か会話を交わしたと言われている*2。
決戦はその三日後に行われ、王国軍と遊牧民は全軍を持って衝突したが、
兵力差はほとんどなかったにも関わらず、わずか数時間の衝突で王国軍が遊牧民を押し始めた。
その日の夕暮れには王国側が勝利の勝ち鬨を上げた*3。
しかし、ファレッタは敗残の遊牧民への虐殺を堅く禁じるよう徹底させた*4。
注釈
- クレシ・クセンは俗称。「草原の偉大なる戦士」という意味の東方大陸語である。野心的で大陸全土をその手に治めようとしており、争いの絶えなかった大陸極東の先にある島国と「不戦の盟約」を結ぶと、一気に西方へと侵略を開始した。草原の遊牧民は文明的に劣っていたため、ハイフェルドの文化に憧れていたとされている。
- クレシ・クセンはこの当時まだ31歳であった。自らの足で戦地を事前に見る癖があった。このため、変装の達人だったと言われている。王都の視察に行っていた事実は遊牧民族側の記録に残されており、このときの王の言葉として「城下の街で敵軍の将に偶然会った。茶を飲み、話をした。歴史上、戦の前に敵の大将と物語るなどした者は自分と相手くらいだろう」と豪快に語った。これがファレッタ本人かどうかは、正確には不明である。後世の創作家や歴史家を刺激するに余りある資料と言えるが、それを裏付けるような行動をクレシ・クセンはこの後起こす(後述する)ため、今ではほとんどの歴史家がファレッタ本人だと認めている。
- 兵を小出しに当て、わざと敵に勝利させていたのは明らかにファレッタの策である。断続的に戦闘を行わせることで、敵軍の緊張感を持続させ、神経をすり減らす効果があった。また、勝たせ続けることで、わざと王国軍を侮らせた。この間、ファレッタは後方との補給戦を絶つ工作も行っている。疲れさせ、侮らせ、孤立させて心身ともに疲労のピークにあり、慢心していた遊牧民の騎馬隊は、王国軍本隊の前になすすべなく壊走した。作戦としては見事なものであるが、遊牧民の軍が王都に向かう途中に落した市街の被害は甚大で、ハイドフェルド側にも多くの傷跡が残された。このことを指摘する歴史家は少なくないが、ファレッタは事前に街の有力者に対して、敵の侵攻があった場合にはすぐに逃げるか降伏するように通達を出していたため、一般市民の被害は最小限に抑えられている。
- 事前にクレシ・クセンと会っていたことと無関係かどうかは、やはり定かではないが、この恩を遊牧民は忘れなかった。