皇帝ヒュルケンベルグは、最後にして最悪の抵抗に出た。
彼と共に皇国を支えた呪術師モーシェ*1は、死者再生の秘奥義*2を使った。
あらゆる墓に眠っていた亡骸、そして王国軍、砂漠の民問わず、
砂漠に棄てられた戦死者たちが再生し、皇帝ヒュルケンベルグに従う不死の兵士となって蘇った。
ヒュルケンベルグは死者の軍団を操り、
地下都市に進入していた王国軍と遊牧民に対して苛烈な反撃を開始する。
ヒュルケンベルグの隙を見て逃げ出したファレッタは、混乱に陥る王国軍に命からがら、舞い戻った。
再び王国軍の指揮権をルイーゼから預かると、ファレッタは、
迷路のように複雑な地下都市内から、全住民を地上に逃し始めた。
一部のスーティルの民からの協力*3もあり、
ほとんどすべての住民を地上に出すことに成功している。
住民を避難させた後、地上への通路を土砂で埋める作業を急ピッチで開始。
ほぼ徹夜状態で戦いながら、ほとんどの出入り口を埋めてしまう。
この動きに気がつかなかったヒュルケンベルグではなかったが、
死者の兵士は難しい命令が実行できず*4、とりあえず王国軍を叩くことくらいしか能がなかった。
すでに、「命ある」部下はほとんど残っていなかったのだ。
策士としてすぐれたヒュルケンベルグだったが、言葉の通じぬ亡者の群れには苦戦した。
最後に残された入り口を塞ぐ際、ファレッタはすでに作戦を終えていた。
兵士たちに、地下迷宮中に油をまくように伝えていたのだ。
火を放ち、亡者の群れをすべて燃やし尽くす策*5だった。
敬愛した兄弟子、ヒュルケンベルグと共に。
注釈
- 砂漠の民の中には死者と語らうことができる一派がおり、その流れを汲む呪術師が当時存在していた。モーシェはヒュルケンベルグの要請により、皇国建設を一から指導した同志だった。短期間での建国には、こうした非文明的な恐怖感を民に与えることも重要だったと考えられている。
- この死者再生の秘奥義は、一部現存しているが、モーシェのように非常に広範囲にわたり、かつ数万人単位で復活させた例は、有史以来最初にして最後である。
- 恐怖によって従わされていたスーティルの住民は、ほとんど皇国への忠誠心を持っていなかった。そのため、王国軍は解放軍として迎えた住民が多数いたといわれている。
- 「進め」「戻れ」「曲がれ」「殺せ」の4つ程度しか命令は実行できなかったとされる。多少の損傷があっても疲れを訴えずに戦ったため、連合軍の被害も大きかった。軍事的な能力は、「人間一人に亡者四人」とされるほど、一体一体自体の動きは緩慢だった。
- 三日三晩、地下都市は燃え続けた。亡者の軍団は骨の髄まで燃やされており、炭になっていた。わずかに残っていた皇国側の人物もすべて燃え尽きたといわれるが、当然確認はできなかった。このような苛烈な殲滅戦を指示したファレッタに対し、一部では反発があったとされる。また、ヒュルケンベルグ皇国は王宮と首都をまるごと焼かれてしまったため、統治時代の資料のほとんどが焼失している。
大陸南部は統治機関を失い、後を受けてハイドフェルドと遊牧民が政治の実態を握る新しい国「南大陸国」を作った。